Cuto Soto
メンバーの何人かは今回が初めての来日だった。とりわけ事前に知らされていたとは言え驚きだったのが、トロンボーン奏者としてクト・ソトがやって来たことだった。クトはちょうど10年前に、わたしがこうした文章を書くきっかけをつくった人物で、サルサ・ロマンティカの終わり頃に頭角を現したプロューサー。当時はジェリー・リベラやジーロなど、とても数え切れないアイドル・サルサのプロデュースで飛ぶ鳥を落とす勢いだった。もう10年以上のつき合いになるのに、会うのは今回が初めてなのだ。部屋に上がると、サンフランシスコの空港で買ったというフランスパンと、プエルトリコから持参の果物や豆の缶詰を開けてしきりに勧めてくれる。「クトは菜食主義者だったっけ?」。そう訊ねていつかも電話の向こうでおいしそうに果物を食べていたことを思い出した。「そうだよ。もう何年も肉は口にしてない」。そして楽器ケースを開けて調子を確認している。「こうしてクトと一緒にいるなんて信じられないよ」。「ハハハ、おれが日本に行くなんて誰が考えたんだよ!?」。10年ほど前のプエルトリコのサルサは、ちょうどその頃世界中に拡がり始めたダンスのブームとともに好況を謳歌していた。クト・ソトも月に何枚ものアルバムをプロデュースしていた。しかし完全に時代は移り変わって、今はご存じのようにレゲトンの時代。サルサの録音は以前のようにはない。彼が、一ミュージシャンとしてここにいる理由にもこうした背景がある。「プエルトリカン・パワーとやってどれくらいになるのかな?」。「これで2回目だよ(笑)、先週プエルトリコのホテルでやったのが最初だった」。まだ曲をちゃんと把握してないらしく楽譜を出してチェックしている。ホテルの控えめな照明にプエルトリカン・パワーのよく知られたナンバーが美しく浮かびあがっている。クトはこの天気だと外を歩くのは難しいななどと言っている。
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